PAINAD (重度認知症における疼痛評価スケール)
詳細情報
このアプリは、CliniScaleで提供している臨床評価スケールの内容を説明するものです。
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基本情報
正式名称: Pain Assessment in Advanced Dementia
日本語名: 重度認知症における疼痛評価スケール
対象年齢: 成人(主に高齢者)
評価目的: 認知症患者痛み評価
実施時間: 2 分間の観察
開発背景
開発者: Victoria Warden, Ann C. Hurley, Ladislav Volicer
発行年: 2003 年
理論的基盤: 認知症患者の行動観察による疼痛評価理論
著作権・使用条件
パブリックドメイン(米国政府機関での開発のため無料使用可能)
パブリックドメイン
商用利用
可
許諾
不要
料金
無料
研修
不要
原開発者: Warden (2003)
日本語版: Japanese version validated
利用時の推奨事項
出典を引用
尺度構成
全体構造
- 総項目数: 5 項目
- サブスケール数: なし(単一因子構造)
- 評価方式: 各項目 0-2 点の 3 段階評価、合計 0-10 点
評価項目詳細
1. 呼吸(発声とは独立した呼吸パターン)
- 正常な呼吸(0 点): 楽で静かなリズミカルな呼吸
- 時々の努力呼吸(1 点): 断続的な苦しそうで困難な呼吸、短時間の過呼吸
- 雑音を伴う努力呼吸(2 点): 吸気・呼気時の負の音、長時間の過呼吸、チェーン・ストークス呼吸
2. 負の発声(痛みを示唆する音声表現)
- なし(0 点): 中性的または快い音質の発声
- 時々のうめき声・ぶつぶつ言う(1 点): 悲しげな音、低い音量での否定的な発言
- 繰り返し困った様子で叫ぶ(2 点): 大きなうめき声やうなり声、泣き声
3. 表情(顔の表情による痛みの表現)
- 笑顔または無表情(0 点): 穏やかで落ち着いた、リラックスした表情
- 悲しい・怖がっている・眉をひそめる(1 点): 不幸そうで孤独な、恐れを表す表情
- 顔をしかめる(2 点): 歪んだ苦悶の表情、眉や口の周りのしわの増加
4. 身体言語(身体の動きや姿勢)
- リラックスしている(0 点): 穏やかで落ち着いた様子、安らいでいる
- 緊張している・苦悶の歩行・そわそわしている(1 点): 緊張した不安そうな様子
- 硬直・握りこぶし・抵抗や暴力(2 点): 身体の硬直、攻撃的な動き
5. 慰められやすさ(声かけや接触への反応)
- 慰める必要がない(0 点): 安らぎ感があり、慰めを必要としない
- 気を逸らしたり安心させることで慰められる(1 点): 声かけや接触で行動が中断される
- 慰めることができない(2 点): 声かけや身体的接触でも行動を鎮静化できない
信頼性・妥当性
信頼性
- 内的整合性: 0.50(安静時)から 0.67(ケア活動時)
- テスト再テスト信頼性: 報告なし
- 評定者間信頼性: r = 0.82-0.97(高い)
妥当性
- 併存妥当性: r = 0.76-0.95(安静時・活動時により変動)、DS-DAT(認知症不快感スケール)との有意な相関
- 薬物療法前後での有意差: 疼痛薬投与前後で PAINAD スコアに統計的有意差を検出
- 感度: 92%(高い)- Jordan et al. (2011)による英国での検証研究
- 特異度: 偽陽性率が比較的高い(心理社会的苦痛を疼痛と誤判定する傾向)
得点化・解釈
基本得点
各項目の得点を単純合計(0-10 点)
疼痛評価の指針
- スコア 0: 疼痛の兆候なし
- スコア 1: 疼痛の可能性に注意を要する
- スコア 2 以上: 疼痛の可能性が高い - 疼痛治療の検討が必要
重要: 原典論文では明確な重症度分類は確立されておらず、後続研究(Zwakhalen et al. 2012)において「スコア 2 以上を疼痛治療開始の目安」とする推奨が示されている。
実施上の注意点
対象者
- 重度認知症患者(MMSE 5 点未満推奨)
- 言語コミュニケーションが困難な患者
- 失語症患者
評価者
- 医療従事者(看護師、医師、介護士)
- 特別な訓練は不要だが、認知症ケアの経験が望ましい
- 患者を知る担当者が評価することが推奨
制限事項
- 認知症の行動症状と疼痛症状の区別が困難な場合がある
- 呼吸項目は評価が困難とする報告あり
- 慰められやすさの項目に不確実性を感じる評価者が存在
- 急性期病院での妥当性に懸念あり
- 偽陽性率が比較的高い(心理社会的苦痛を疼痛と誤認する傾向)
参考文献
- Warden V, Hurley AC, Volicer L. Development and psychometric evaluation of the Pain Assessment in Advanced Dementia (PAINAD) scale. J Am Med Dir Assoc. 2003;4(1):9-15.
- Zwakhalen SM, van der Steen JT, Najim MD. Which score most likely represents pain on the observational PAINAD pain scale for patients with dementia? J Am Med Dir Assoc. 2012;13(4):384-9.
- 日本老年医学会関連文献